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執筆者の写真litruslaw

Q アスベスト被害は世界、そして日本で何故拡がったのでしょうか?

A 1930年に国際連盟が中心となって南アフリカのヨハネスブルグで開いたけい肺に関する初の国際会議ではまとめとしてアスベスト塵の吸入によるじん肺の発生が確実であることが示されました。その後、その結果をまとめた「けい肺の医学的見解に関する委員会報告」の中で、アスベスト粉じんの吸入が一定のじん肺を形成すること、けい肺と同様の立証方法を用いるべきことなどが挙げられました。ILOは1932年にじん肺に関する文献リストを作成し、石綿に関する70編の研究を発表しました。この動きが1937年以降の先駆的な石綿肺の調査につながったのです。  ドイツでも、1935年に災害保険を職業病に拡張する第3次命令が出され、石綿肺が補償されるべき職業病のリストに追加され、1943年には石綿を伴う肺癌を労災補償の対象としています。日本でも同盟国であったドイツの石綿肺に関する知見が共有されていた可能性は否定できません。    第2次大戦後、肺癌、中皮腫に関する知見、認識については、世界癌会議、国際労働衛生会議が3,4年に一度開催され、日本からも専門家が参加していました。 1952年にサラナク研究所で開催された第7回シンポジウム、1959年の南アフリカで開催されたじん肺に関する国際会議、1964年のニューヨーク・アカデミー主催の会議は重要です。当時出版された文献からは1950年代半ばから1960年にかけてアスベストと肺癌の関係が確認できました。遅くとも1960年代からは、国内でもアスベストの発がん性を示す研究報告がなされ、1960年代後半からは国内で開かれた国際会議を通じ最新の知見が共有されていったのです。 1952年のサラナク・シンポジウムに参加していた研究者が複数来日し、アメリカの研究者がアスベスト関連工場周辺の住民に中皮腫が多発していることを報告しています。1969年の国際労働衛生会議では、アスベストに関するセッションが追加され、中皮腫による被害を含めた外国の状況が報告され、南アフリカの参加者は、環境曝露による中皮腫が多発する可能性をデータで示していました。 しかし、日本において、アスベストは、いわば国策産業でした。日本アスベストが設立されたのは海軍の要請があったためでした。暁ブレーキが設立されたのは陸軍のトラック需要が要因でした。秩父セメントによる高圧石綿セメント管の導入は、当時の企画院の要請によるものでした。  アスベストは、鉄道省、満鉄、海軍、水道等を通じて我が国の産業の発展に寄与していたのです。国は、アスベスト製品の規格(旧JES日本標準規格)を定め、また、生産されたアスベストの納入を受けていたのです。台湾、朝鮮、満州の植民地化はアスベスト工場の建設と密接な関係がありました。  第2次大戦後は、建材産業の技術力が不足していたこともあり、ジョンズ・マンビル社のアスベストの輸入は必須でした。通商産業省は、石綿建材の保護育成のため海外技術導入を推奨しましたが、それに反対するアメリカとの間に日米石綿問題が起きました。アスベスト企業は中小企業が多かったので、同省の保護対象にならざるを得なかったのです。  労働省の労働衛生課、労働衛生研究所はアスベストによる健康被害の実情を知り得る立場にありました。公共事業におけるアスベストの発注者は、地方自治体が圧倒的に多かったのです。  1960年代に入り、労働衛生課監修の「労働衛生」が発行されるようになると、ILOの化学工業労働委員会の翻訳がなされ、石綿肺と肺癌との因果関係も認められるようになりました。遅くとも、国の関係者の間では1960年代の前半にはアスベストの発がん性について認識されるようになりました。  しかし、アスベストは、石綿セメント管(水道管)、建築物の仕上げ材、吹きつけアスベスト、屋根の石綿スレートなど、様々な用途に使われ、かつ、安価であったことから、その使用を規制する十分な対策はとられてこなかったのです。



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