○はじめに
本コラムでは、国又は企業に賠償責任が認められた職種の内、電気工(電工)について解説します。
○電気工とアスベスト
電気工(電工)は、一般的に電気工事の作業に従事している方を指します。そして、電気工事とは、特に建設電気工事において、建築物内外で、各部屋・各所に配電するためにスイッチ、コンセントや電源などの設置、ケーブルや電線を配線し、電気製品に通電させる工事のことです。具体的には、照明器具やエアコンなどの取り付け工事があります。
アスベストが建材として使われていることに伴い、建物に関する工事の際にこれに従事する者がアスベストに晒される(暴露する)ことがあります。
電気工もアスベストに晒されます。照明器具を取り付ける場合、壁や天井を切断したり、アスベスト(石綿)を吹き付けたりして、電気工事自体によって、アスベストに暴露します。また、電気工事は、建物の工事開始時から従事することもあり、他の工事(大工、配管工、保温工等)と並行して行われます。他の工事と並行して行われることから、電気工は、他の工事から発生するアスベスト粉じんに晒されているといえます。
その結果、電気工はアスベスト健康被害を受けるのです。
裁判所は、以下のとおり、電気工がアスベストに暴露されることを認め、国又は企業側に賠償責任があると判断しています。
裁判例(大阪地裁平成26年2月7日判決)では、「工事現場全体として見た時には、天井や壁に使用する建材の切断や石綿吹付等が行われていることに変わりはないのであるから、石綿粉じんは発生すると考えられる」とし、「石綿含有建材が使用されている以上、石綿粉じん曝露の可能性は否定できない」と、原告である電気工がアスベストに暴露されたことを肯定しました。
その後の裁判例(京都地裁平成28年1月29日)でも、「電気工は、基礎工事において仮設電気工事を行った後、躯体工事において建物各所へのパイプの配置、配線器具を設置するためのボックスの設置、デッキプレートへのインサートの設置、壁、床、梁を貫通するスリーブの取付け等を行い、躯体工事が終わると、配管したパイプへの通線作業、スリーブへの耐火被覆作業、照明器具等の取付けを行う。電気工は、吹付作業が行われた場合は、吊りボルトを取り付けるためにインサートに付着した吹付材を削り取って除去する際に、耐火被覆板を切断してスリーブに取り付け、充填剤を詰め込む際に、ボックス出しのためにボードを切断する際に、それぞれ石綿粉じんに曝露した。また、電気工は、吹付工、配管工、保温工、大工等と同時に作業を行うことから、これらの作業によって飛散した石綿粉じんにも曝露した」と、原告である電気工のアスベスト暴露を認めました。
上記の裁判所が判示するところによると、アスベストのばく露する電気工の具体的な作業として、以下のものがあります。
・吊りボルトの取り付け作業
・スリープへの耐火被覆作業
・照明器具の取り付け作業
・ボックスだし作業
また、裁判所は、一般的に工事が専門職種ごとに行われるところ、同時並行的に作業が混在する場合があるとして、他の職種の作業と並行して行われた電気工の作業に従事した者にも、アスベストに暴露する可能性を認めています。
○救済手段
アスベスト健康被害を被った方は、一定の要件の下、国から金銭の給付を受けることができます。さらに、企業に対して訴訟を提起し、損害賠償などを請求することができる場合があります。これらの救済手段は、他の職種の方と区別されることなく、電気工の作業に従事した方でも利用できます。利用できる可能性のある各救済手段は、以下のとおりです。
・労災保険による給付
・アスベスト(石綿)による健康被害救済給付
・建設アスベスト給付金制度
・国に対する損害賠償請求訴訟における和解
・企業に対する損害賠償請求訴訟
上記のように、アスベスト健康被害を被った方について、救済手段がいくつもあります。しかし、国から金銭の給付を受けるにも、手続きや訴訟を提起するにはハードルが高く、救済を受けることに躊躇されるかもしれません。しかし、専門家に相談することでハードルを解消できることもあります。一度、専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。
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