1 はじめに
今回は、現場監督業務によるアスベスト被害についてご説明します。具体的には、現場監督はどのような作業により石綿粉じんにばく露する可能性があるか、石綿粉じんにばく露する原因となっていた可能性がある建材は何か、現場監督の業務により石綿粉じんにばく露した方の救済制度としてどのようなものがあるかということについてご説明します。
2 現場監督はどのような作業により石綿粉じんにばく露する可能性があるか
現場監督は、建設の着工から引き渡しまでの施工管理を行うため、自らが工事を行うわけではありません。しかし、現場監督は建設現場を確認して指示を出す必要があり、基本的に建設現場へ出向いて作業します。その現場が石綿粉じんが舞うところだった場合には、自身が直接工事を行っていなくても石綿粉じんにばく露する環境で業務を行うことになります。現場監督は、石綿含有建材が用いられている建設現場で作業に従事することで石綿粉じんにばく露する可能性があるのです。
裁判例[Legal2] (京都地裁平成28年11月29日)でも、現場監督者は、工期の全期間にわたって建設作業現場での施工状況の監督を行うことから、自ら石綿含有建材を使用することはなくとも、各工事の作業によって生じた石綿粉じんにばく露し、また、吹付作業の確認や吹付材の清掃の際に、吹付材から発生する石綿粉じんにばく露したことが認められています。
3 石綿粉じんにばく露する可能性がある建材は何か
では、どのような建材を用いて建築作業を行った場合に石綿粉じんにばく露する可能性があるのでしょうか。
石綿粉じんにばく露する可能性がある建材の代表例をご紹介します。
石綿セメントビニル管
石綿含有屋根材・石綿[YI3] 含有ボード(外壁材・内装材)
石綿保温材・煙突材
石綿吹きつけ材
石綿含有岩綿吹きつけ
石綿フェルト
石綿含有パーライト吹きつけ
石綿含有バーミキュライト吹きつけ
※吹き付け作業や貼り付け作業、解体作業時にも石綿粉じんにばく露する可能性があります。
4 現場監督の業務により石綿粉じんにばく露した方の救済制度
では、実際に石綿粉じんにばく露してしまった場合、現場監督として従事していた方はどのような救済制度を利用することができるのでしょうか。
現場監督の業務に従事した結果、石綿粉じんによる健康被害を受けた場合にも、他の建設作業者と同様に石綿健康被害救済制度(石綿救済法)による給付、労災制度による補償や、建設アスベスト給付金制度による給付を受けることができます。
また、国や使用者に対して損害賠償請求訴訟を提起することも可能です。さらに、裁判所がシェア論を採用したことで、具体的にどの期間・場所においてどの建材を使用していたか特定することが困難な場合にも建材メーカーに対する損害賠償請求も可能となりました。シェア論とは、相当程度の市場シェアを有する建材メーカーの建材を被害者が使用していた場合には、当該石綿含有建材のシェアを基礎として作業者が綿含有建材を一度でも使用する確率を計算し、作業者が石綿含有建材を使用していた可能性が相当程度を超える場合には、建材メーカーの損害賠償責任が認められるというものです。ただし、シェア論にも注意点があります。相当程度のシェアを有する建材であったとしても、通常の作業内容等を踏まえて、高頻度かつ長時間直接取り扱うものではなく、取り扱う際に多量の石綿粉じんにばく露するといえる石綿含有建材にあたらない場合や、被害者が建設作業に従事していた地域での販売量が僅かであるもの、使用目的が建物以外の設備等であるもの、特定の施工代理店等により使用されるもの等は除外されてしまうのです。そのため、メーカーに対する損害賠償請求を検討している場合には、これらの除外自由がないか注意して確認する必要があります。
Column(最判令和3年5月17日(事件番号:平31年(受)596号)参考)
建材メーカーに対して損害賠償請求を行う場合において、作業者が綿含有建材を一度でも
使用する確率は以下の計算式で求めることができます。
1-(1-特定の石綿含有建材のシェアに照らし、その建材が各建設現場で用いられる確率)作業した建設現場の数[Legal4]
例えば、「特定の石綿含有建材のシェアに照らし、その建材が各建設現場で用いられる確率」が10%であると認められる場合には、被害者が20箇所の建設現場で作業をするときに,その建材が被害者の作業する建設現場に1回でも到達する確率は約88%(計算式は1-(1-0.1)20)となります。
[Legal2]京都地裁平成28年11月29日。
[Legal4]最判令和3年5月17日(事件番号:平31年(受)596号)参考
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