現在はアスベストの使用は国によって全面的に禁止されています。
しかし、健康被害を起こすことを除けばアスベストは非常に優秀な建材であったことは事実で、多くの建設現場で使用されてきました。
本来であれば健康被害を引き起こし得ることがわかった時点で国が規制しなければならなかったものですが、その点について国に法的責任を追及しても、長い間国の責任は認められないままに、多くの健康被害者を放置して時が過ぎていきました。
しかし令和3年、ついに最高裁判所によって国の責任を認めるという判決が出て、今まで苦しんできた方々に金銭的賠償が行われる制度が作られました。
本記事では、建設アスベスト給付金制度の概要を、給付金制度が開始するまでの流れと共に弁護士が解説します。
目次 1.建設アスベスト給付金制度の概要 2.建設アスベスト給付金の受給対象 3.建設アスベスト給付金の支給額 4.まとめ |
1.建設アスベスト給付金制度の概要
令和3年の最高裁判所の判決で、アスベストによる健康被害を受けた建設労働者に対する国の責任が認められたことは上述しました。
その理由は、アスベストが健康被害を引き起こすことがわかった後も国が適切な規制を行わなかったからである、というものです。
この判決を受けて、国は個別に裁判をせずとも建設労働者が救済を受けられるよう、「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」(以下アスベスト給付金法といいます)を制定しました。
これによって、所定の要件を満たした方が申請すれば、裁判をすることなく早期に給付金を受け取ることができる制度が始まりました。
⑴ いつから受給できるのか?
建設アスベスト給付金は、アスベスト給付金法(令和4年(2022年)1月19日)が施行された時から給付金請求の受付が開始されています。
請求後、厚生労働省で給付要件を満たしているかの審査・認定が行われ、審査に通り、支給対象であると認定された場合には給付金が振り込まれます。
⑵ 建設アスベスト給付金の請求方法
建設アスベスト給付金を請求する場合には、必要書類を厚生労働省に郵送します。
主に請求に必要な書類として、『特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等請求書』の他にアスベストに触れる業務を行っていたことの証明や、そこで働いていた期間がわかる資料等が必要となります。
ただ、請求者が本人なのか遺族なのか、労災給付を受けているか否か等、個別の状況によって請求に必要な書類は異なります。
ご自身で状況に応じて必要書類を選び、その他必要な手続きを取った上で給付金を請求するのはなかなかに大変ですので、弁護士に依頼することをお勧めします。弁護士にご依頼いただければ、必要書類の選定からその他手続、実際の請求までをサポートいたします。
2.建設アスベスト給付金の受給対象
⑴ 特定石綿ばく露建設業務に従事していた労働者等やその遺族であること
特定石綿ばく露建設作業とは、以下に掲げる二種類の建設業務のことを指します。それぞれ、記載している期間内に下記いずれかの作業を行っていたことが必要です。
また、「労働者等」と書いているのは、企業等に雇用されていた方だけではなく、個人事業主である一人親方や事業主(手伝っていた家族も含む)も対象となる、という意味です。
■石綿の吹き付けの作業にかかる建設業務
対象期間:昭和47年(1972年)10月1日~昭和50年(1975年)9月30日
■屋内作業場であって厚生労働省令に定めるものにおいて行われた作業に係る業務
対象期間:昭和50年(1975年)10月1日~平成16年(2004年)9月30日
『屋内作業場であって厚生労働省令に定めるものにおいて行われた作業に係る業務』に該当するのは以下の状況を満たす場所と定められています。
■屋根があること
■側面の面積の半分以上が外壁などに囲まれ、外気が入りにくいこと
■外気が入りにくいことにより、石綿の粉じんが滞留するおそれのある作業場であること
※これら要件については、該当するか否かが一見して明らかではない場合もあります。そういった場合でも弁護士が見込みを判断しますので、自身の判断で諦めず、一度まずご相談ください。
⑵ 石綿関連疾病を発症したこと
アスベストによる疾病として、給付金の支給対象となるものは下記の五種類の疾病です。
■中皮腫
■肺がん
■著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
■石綿肺(じん肺管理区分で管理2~4に相当するもの)
■良性石綿胸水
⑶ 遺族からの請求の場合
本来請求権者であった労働者等本人が既に亡くなっている場合には、遺族が請求することも可能です。
その際の請求権者は、次の順番であると定められています。
全て本来の請求権者である労働者等本人を基準として、本人の①配偶者(内縁含む)⇒②子⇒③父母⇒④孫⇒⑤祖父母⇒⑥兄弟姉妹の順番です。
その中で最も番号の若い順位の遺族だけが請求できるので、例えば労働者等本人の配偶者であった方が存命であるにも関わらず、その子が請求をしても給付金の支給は認められません。
この場合には、労働者等の配偶者であった方が請求をする必要があります。
なお、例えば同順位の遺族が複数人居る場合(子が複数人居る場合等)には、同順位の者のうち代表者1名が請求します。
⑷ 請求期限
建設アスベスト給付金の請求には、請求できる期限があります。
その期限を過ぎてしまうと、上記の要件全てを満たしている場合であっても、発生から日が経ちすぎているということで、請求が認められなくなってしまいます。
請求期限の原則は、以下のいずれか遅い方の日を起算日として20年です。
工場労働者の方の場合とは異なるので、注意が必要です。
■石綿関連疾病にかかった旨の医師の診断を受けた日
■管理2~4のじん肺管理区分の決定を受けた日
※なお、被害者が石綿関連疾病で亡くなっている際には、亡くなった日から起算して20年となります。
被害にあったことが事実であり、給付金の要件が整っていたとしても時間が経ちすぎてしまうと、ただそれだけの理由で請求が認められなくなってしまいます。
現在ではアスベスト規制から既にかなり時間が経っており、アスベストによる健康被害を受けた方の高齢化が進んでいます。
これからの請求をお考えの方々にとって重大な問題ですので、ご自身で判断せず、必ず弁護士に相談することをお勧めします。
3.建設アスベスト給付金の支給額
給付金の支給額は、疾病ごと、その重篤さに応じて類型的に定められています。
⑴ 各疾病の支給額
| 疾病の種類 | 支給額 |
1 | 石綿肺(石綿肺管理2・じん肺法所定の合併症なし) | 550万円 |
2 | 石綿肺(石綿肺管理2・じん肺法所定の合併症あり) | 700万円 |
3 | 石綿肺(石綿肺管理3・じん肺法所定の合併症なし) | 800万円 |
4 | 石綿肺(石綿肺管理3・じん肺法所定の合併症あり) | 950万円 |
5 | 中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、石綿肺(石綿肺管理4)、良性石綿胸水 | 1150万円 |
6 | 1または3で死亡した場合 | 1200万円 |
7 | 2または4または5で死亡した場合 | 1300万円 |
病は時間の経過で進行する場合もあります。給付金を受け取った後になってさらに症状が進行した場合であっても、再度追加の給付金申請をすることができます。
その場合の支給額は、進行した病状に対して支給される金額から一度目の支給額を引いた、差額分となります。
(例)石綿肺(石綿肺管理2・じん肺法所定の合併症なし)で550万円の給付金を受けた後、石綿肺が原因で死亡したケース
⇒1200万円-550万円=650万円が支給額となります。
⑵ 減額されるケース
上記給付要件に該当する方であっても、必ず全額の給付が受けられるというわけではありません。
例えば、特定石綿ばく露建設業務に従事していた期間が短い方については、支給額が10%減額されます。
疾病ごとに基準となる期間が定められており、その期間は以下のとおりです。
■肺がん・石綿肺の場合…10年未満
■著しい呼吸機能障害を伴う
びまん性胸膜肥厚の場合…3年未満
■中皮腫・良性石綿胸水の場合…1年未満
更に、肺がんの場合、喫煙の習慣によっても10%の減額があります。
肺がんはアスベストのばく露のみからしか発生しないものではなく、喫煙の習慣があることも複合的な要因の一つであるとされるからです。
つまり、要件には該当しているものの、特定石綿ばく露建設業務に従事していた期間が短く、更に喫煙の習慣がある方については二重の減額を受けることになります。
ただし、減額幅は加算ではなく乗算ですので、このケースでは満額から19%の減額をされた金額が給付金額となります。
4.まとめ
このように、建設アスベスト給付金については定式化された処理が存在します。
しかし、定式化されているとはいえ細かい判断や微妙な判断が必要なところもあります。
更に、上述したようにアスベスト健康被害を受けた方々の高齢化が進行しており、既に亡くなってしまっている方も多くいらっしゃいます。
そのような状況で、誰が請求権者であるか、請求するための要件は何かを自身で勉強し、請求するのは大変なことです。
当時労働者等本人(親など)が要件に該当する期間その仕事に就いていたことをどう証明すればいいのか、そもそも親がその仕事をしていたのは確かにその期間だったのか等、わからないことばかりだと思います。
ご本人で行おうとすると大変な手続きですが、弁護士がこれら手続を行うことで、請求権者の方の負担を軽減することができます。
アスベスト健康被害に対する被害救済は我々が力を入れて行っている分野で、支払われた金額の中から報酬金をいただき、依頼者の方の手元からの出費を必要としない完全成功報酬で対応しています。
わからないことを調べているうちに請求期間が経過し、請求できなくなってしまった、というような悲惨な結果を防ぐために、弁護士に手続を依頼すべき事件類型といえるでしょう。
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