アスベスト訴訟 ~和解手続きの流れ~
過去の一定期間にアスベスト工場で働き、健康被害を受けた場合、訴訟を起こし、その中での和解手続きに基づいて賠償金の支払いを受けることができます。
この記事では、和解が成立するまでの手続の流れを解説します。
アスベスト訴訟で和解が成立するまでの手続の流れ
アスベストによる健康被害についての損害賠償請求は、アスベスト訴訟によって行う必要があります。
具体的にどういった流れで訴訟が進むのか、全体像を見てみましょう。
■訴訟提起前の準備
まず訴訟提起前の段階で、証拠の収集を行いながら訴訟の内容(請求根拠や請求金額)を吟味して組み立てていきます。
裁判においては、主張内容について証拠を用いて立証する必要がありますので、主張内容に対応する証拠収集を徹底的に行うことが大切です。
また、和解によって受け取ることができる賠償金額は、健康被害の内容によって決まっています。こちらについては、後の項目にて解説しますので、そちらをご参照ください。
アスベスト訴訟で適切な和解金を受け取るために、随時弁護士に相談しながら充実した訴訟準備をすることをお勧めします。
■訴訟提起
訴訟の準備が完了したら、実際に裁判所に訴状を提出し、国家賠償請求訴訟を提起します。
アスベスト訴訟のような損害賠償請求訴訟では、「被告の普通裁判籍の所在地(=被告住所地)を管轄する裁判所」(民事訴訟法4条1項)、「義務履行地(=金銭賠償を求める場合なので、原告の住所地)を管轄する裁判所」(同法5条1項1号)、不法行為地(=アスベスト工場の当時の所在地)を管轄する裁判所(同条同項9号)が管轄となります。
裁判所に訴状が受理された場合、第1回口頭弁論期日が指定されて呼出状が届きます。そこからは、第一回口頭弁論期日までの間にこちらの主張や詳しい内容、証拠を揃えた準備書面を裁判所に提出する必要があります。
■口頭弁論期日での主張・立証
実際の訴訟期日では、最高裁判所の判例にならって定められた和解要件の主張・立証活動を行います。
第一回でこちらが主張・立証を行い、そのおよそ一か月後の第二回期日で相手方からの反論があり、その更に一か月後の第三回期日でさらにこちらが再反論を行う、というような形で、2か月に一度こちらの番が回ってくるというようなイメージで進行していきます。
和解要件については、全要件について主張・立証を行う必要があるので、それらすべての要件が満たされていることを主張し、立証できるまで訴訟は続きます。
迅速に訴訟手続きを終える為には、訴訟提起前の段階で立証に必要な証拠資料をあらかじめ収集しておくということが重要です。
■裁判上の和解
訴訟で主張立証活動を行い、その結果全ての要件を満たしているということが確認された場合には、相手方である国が和解に応じる、という姿勢になります。
そして裁判上の和解という手続きが取られ、その和解は判決と同様の拘束力を持ちます。(民事訴訟法267条)。
つまり、裁判の場で相手方である国が、和解調書に示された金額の支払いを公式に約束する、ということになるのです。
■賠償金の受け取り
裁判上の和解がなされると、和解した内容通りに国が約束を果たし、賠償金が振り込まれます。
この際、賠償金は通常弁護士の下に振込まれ、弁護士費用や実費を差し引いた形で弁護士から依頼者様の下に振込まれます。
アスベスト訴訟における和解成立の要件
アスベスト訴訟における和解要件は、ほぼルール化されていると言ってよいほど確立されています。
それらルールに従って端的に主張・立証活動を行うことが必要です。
具体的にどのようなことを立証する必要があるのか、見ていきましょう。
■一定期間における石綿(アスベスト)工場での作業従事歴
昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間に居所排気装置を設置すべき石綿(アスベスト)工場内において、石綿(アスベスト)粉じんにばく露する作業に従事したこと、が要件の一つとなります。
まさに上記期間に働いていた、という方にとっては、日本年金機構が発行する「被保険者記録照会回答票」があれば立証に有効です。
しかし、アスベスト工場での作業従事歴が上記の期間に重なっていない場合には、アスベスト訴訟による定型的和解の対象外になります。
とはいえ、上記期間に重なっていないから損害賠償請求の対象にならない、ということではありません。健康被害が生じた経緯等によっては、国や企業に対する損害賠償請求が認められるケースもあります。あくまで定型的和解の対象外になる、ということであって、上記期間に重なっていない方の場合、通常の訴訟活動と同じく、案件に応じて個別具体的な立証が必要となりますので、個別にご相談ください。
■アスベストによる健康被害の立証
アスベスト訴訟によって得られる和解金額は、健康被害の症状によって定型的に決められるため、自身の健康状態が和解要件に定められているどれに該当するのか、どのような資料でそれを立証するのかを把握しておかなければなりません。
健康被害の症状を立証する証拠としては、定型的には以下のものが考えられます。
・都道府県労働局長が発行する「じん肺管理区分決定通知書」
・労働基準監督署長が発行する「労災保険給付支給決定通知書」
・医師の発行する診断書
■損害賠償請求権の消滅時効にかかっていないこと
アスベスト訴訟は、正確には国に対する損害賠償請求訴訟であって、法的に説明すると、不法行為に基づく損害賠償請求というものに分類されます。そのため、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効(民法724条、724条の2)にかかってしまった場合には、請求することができなくなります。
消滅時効の起算点は、損害の内もっとも重い症状が新たに見つかった時点とされるのが通常です。民法改正があった関係で、もっとも重い症状が新たに見つかった時点がいつだったのかによって、消滅時効がいつ完成するかが変わってきます。
具体的には、2020年3月31日以前に見つかったのであれば損害及び加害者を知った時から3年または不法行為時から20年のいずれか早い方、
2020年4月1日以降に見つかったのであれば、損害及び加害者を知った時から5年または不法行為時から20年のいずれか早い方となります。
上記通り、消滅時効が完成してしまうと、国に対して和解金を請求することができなくなります。そのため、ご自身が和解金を請求できるかもしれないと思い当たった場合には、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
また、時効の完成については細かい判断が必要な場合もあるので、時効が完成していると思っても、ご自身の判断で諦めず、ご相談ください。
アスベスト訴訟の和解により受け取ることができる賠償金額
アスベスト訴訟における和解金額は、賠償金額が定められています。
アスベスト訴訟の和解手続きは自分でもできる?
結論から言えば、被害者ご自身で訴訟手続きを行うこと(本人訴訟といいます)自体は認められており、その点では、一応可能であると言えます。
ただし、本人訴訟は(アスベスト訴訟に限らず)ほぼ全ての場合でお勧めしがたいと言わざるを得ません。
裁判は通常、法律の専門家が集まり、その共通言語である法律を用いて争う場である為、使用される共通言語に精通していない方が進行についていき、的確なタイミングで的確な主張立証を行うことは困難を極めます。
また訴訟資料を収集した上で、1から訴訟手続きのやり方を学び、ご自身で主張書面を用意し、本業を差し置いて平日に裁判所に赴いて手続に参加する、ということを繰り返すのはご本人様の負担としても非常に大きいものです。
しかも、これらの活動をアスベストによる健康被害を抱えながら行うことになります。
アスベスト訴訟については一定程度定式化されており、弁護士としても工数が想定しやすい分、完全成功報酬制で対応している場合が多いことを考えると、依頼して損をするということがないのですから、弁護士に依頼して進めるべき事案であると言えます。
確かにアスベスト訴訟は上述通り一定程度定式化されている分”通常の訴訟と比べると”被害者ご自身でも対応しやすい類型であることは確かです。
しかし定式化されているとはいえ、アスベスト訴訟は病気に関する医療関係の訴訟であり、場合によっては高度な医学的立証が必要になります。
特に上記のように健康被害の状況によって区分分けされているアスベスト訴訟のシステム上、賠償金のどの区分に該当するかの判断が微妙なケースにおいては、医師とコミュニケーションを取り、医学的な立証を行うことが求められます。
このような場合には、被害者ご本人で訴訟を提起し、主張・立証を行うことは困難となる可能性があります。
また、アスベストによる健康被害の賠償金の請求はアスベスト訴訟を提起する必要があるため、雑多な訴訟手続きを行う必要があります。
弁護士に依頼することで、被害者の訴訟手続きの負担が軽減される・専門的な立証にも対応できるため、スムーズに和解金を受け取ることができる等、多くのメリットがあります。
まとめ
事前に充実した訴訟準備を行うことで、スムーズにアスベスト訴訟での和解を実現することができます。
そして上述通り、一応制度上本人訴訟は可能であるものの、訴訟については全般的に専門の対応が必要となることから、弁護士にご依頼いただくことをお勧めいたします。
訴訟準備、訴訟手続きの遂行、和解の成立まで、被害者の方のご負担を軽減し、スムーズにアスベスト訴訟での和解を実現できるように、サポートをご提供いたします。
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