アスベスト(石綿)工場で働いていてアスベスト被害に遭われた方やそのご遺族の方々は、国に対して賠償金を請求することができます。
ここでは工場型アスベスト訴訟の概要をご紹介します。
1.アスベスト被害とはどのようなものか
アスベストは、天然から産出される繊維状けい酸塩鉱物です。耐久性、耐熱性、防音性、絶縁性、保温性など多様な機能を有し、安価で経済的であるため、防音材、保温材や断熱材として、多くの場面で使用されていました。
アスベストはそこにあること自体が直ちに問題となるものではありませんが、アスベストは肉眼では確認できないほど細い繊維状の物質であるため、研磨機、切断機などの施設での使用や吹付け石綿などの除去等において適切な措置を行わないと石綿が飛散して人が吸入してしまうおそれがあります。人が吸入した場合、肺胞に沈着しやすいという特徴があり、吸入されたアスベストは人の肺組織内に長く滞留することで肺線維症(じん肺)、肺がん、悪性中皮腫といった健康被害を引き起こすことがあります。
これまで吹き付け工事の従事者を中心として、多数の健康被害が報告されています。
2.大阪泉南アスベスト訴訟
では、アスベスト被害について、どのような場合に国側の賠償責任が認められるのでしょうか。
最高裁が国の規制権限不行使を違法と認定した事案として、大阪・泉南アスベスト訴訟というものがあります。
この訴訟はアスベスト被害に遭った大阪のアスベスト工場の元労働者とその遺族の方々が、アスベスト被害について国家賠償請求を行ったというものです(大阪泉南アスベスト訴訟)。
この訴訟において、最高裁は、昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間、国が規制権限を行使して石綿工場に局所排気装置を設置することを義務付けなかったことが国家賠償法の適用上、違法であると判示しました(最高裁平成26年10月9日判決)。
このように最高裁判所が判断したことで、国はアスベスト工場の元労働者やその遺族が提起する訴訟の中で、要件を満たすことが確認された場合、和解して賠償金を支払うという方針を表明しました。
3. 工場型アスベスト訴訟で受け取ることのできる賠償金
上記でご説明したとおり、アスベスト工場の労働者やその遺族の方々は、国に訴訟を提起し和解が成立すると、損害賠償金を受け取ることができます。
では、工場型アスベスト訴訟の場合、どの程度の賠償金を受け取ることができるのでしょうか。
工場型アスベストの被害者が受け取ることができる賠償金の額は、じん肺管理区分や合併症の有無、症状、死亡の有無によって異なります。各症状がある場合に受け取ることのできる賠償金の額の目安は以下のとおりです。
※「じん肺管理区分」は、じん肺健康診断によって判定され、「管理1」は無所見を意味し、「管理2」以上じん肺の所見があることを示しています。じん肺が進行するほど数字が大きくなります。
管理2・合併症なし | 550万円 |
管理2・合併症あり | 700万円 |
管理3・合併症なし | 800万円 |
管理3・合併症あり | 950万円 |
管理4・肺がん・中皮腫・びまん性胸膜肥厚である | 1150万円 |
石綿肺(管理2,3・合併症なし)により死亡 | 1200万円 |
石綿肺(管理2,3・症ありor管理4)で肺がん・中皮腫・びまん性胸膜肥厚により死亡 | 1300万円 |
4. アスベスト訴訟(工場型)の和解要件
アスベスト訴訟の賠償金を請求する際には、国家賠償請求訴訟を提起する必要があります。賠償金の請求を認めてもらうため、和解要件を満たすことを証明することが必要です。
では、和解要件にはどのようなものがあるのでしょうか。アスベスト訴訟において国に和解に応じてもらうための要件と証拠となり得る資料は以下のとおりです。
①昭和 33 年 5 月 26 日から昭和 46 年 4 月 28 日の間に、局所排気装置を設置すべきだったアスベスト工場内において、アスベスト粉じんにばく露する作業に従事したこと
上記期間内にアスベスト工場で勤務していたことを立証する必要があります。
この要件を満たすことを証明する証拠として、日本年金機構が発行する「被保険者記録照会回答票」が挙げられます。「被保険者記録照会回答票」により、当時の勤務先を確認することができるため、これを証拠として提出することで上記期間内にアスベスト工場で勤務していたことを証明することができます。
②①の結果、アスベストによる一定の健康被害を被ったこと
賠償金を受け取るためには、アスベストによる健康被害の事実を立証する必要があります。
じん肺管理区分は都道府県労働局長が発行する「じん肺管理区分決定通知書」を証拠として提出することで証明することができます。
合併症や死亡については、労働基準監督署長が発行する「労災保険給付支給決定通知書」や、医師の発行する診断書を提出することで証明することができます。
③提訴の時期が損害賠償請求権の期間内であること
アスベスト被害の賠償金は国の不法行為に基づく損害賠償として国が支払うものであるため、消滅時効が完成している場合には請求が認められません。
消滅時効の開始時期は症状や時期によって変わるため、期間については弁護士に確認してみてください。
5.まとめ
工場型アスベスト訴訟は和解要件を満たせば賠償金を受け取れる可能性がありますが、ご自身が対象なのか和解要件を証明することができるのか等考えているうちに請求期限が過ぎてしまったとならないよう早めに弁護士に対象になるかどうかも含めて相談してみてはいかがでしょうか。
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